HOWTO·読了 5分

営業余剰時間を新規アカウントに転用する設計|時間配分の見える化

営業時間の46%が社内業務に消費されている現状から脱却し、余剰時間を新規アカウントやクロスセル提案に転用するための5ステップと時間配分の見える化手順を解説します。

#クロスセル#営業組織#セールスイネーブルメント#時間配分#営業効率

この記事でわかること

  1. 現状の構造的問題: 営業時間の46%が社内業務に消費されているという定量データと、その背景にある組織設計上の要因
  2. 5ステップの実践手順: 稼働分解から月次レビューまで、時間配分の見える化と余剰時間の捻出を段階的に実行する方法
  3. 転用先の優先度設計: 捻出した余剰時間をどの活動に向けるかを、優先度A・B・Cで整理した実行フレーム

基本情報

項目内容
対象営業企画部長・セールスイネーブルメント担当者
難易度中級
関連クラスターC4:営業組織・インセンティブ設計
読了目安5分

営業時間配分 コアノンコア 比率比較図営業時間配分 コアノンコア 比率比較図


営業時間の実態——46%が社内業務に消えている構造

HubSpot調査が示す「顧客接触54%・社内業務46%」の現実

HubSpot Japanが2024年に実施した「日本の営業に関する意識・実態調査2024」によると、営業担当者が顧客とのやりとりに充てている時間は業務時間全体の54%にとどまります。残りの46%は社内会議・社内報告業務・経費処理などの社内作業に費やされています。

この数字が示す意味は明確です。クロスセル提案や新規アカウントへのアプローチに使える稼働は、構造的に上限が設けられている状態です。担当者が「もっと顧客と向き合いたい」と感じながらも実現できない原因は、個人の努力不足ではなく、時間の使い方が組織設計によって制約されているという事実に起因しています。

無駄と感じる業務5年連続ワースト1位は「社内会議」

同調査では、無駄と感じる業務として「社内会議」が5年連続でワースト1位、「社内報告業務」がワースト2位に挙がっています。「1日にあと25分だけ顧客と接する時間を増やしたい」という回答も多く、現場が感じる課題は一貫してこの2点に集約されています。

注目すべきは「5年連続」という継続性です。単発の不満ではなく、組織として解決されないまま慢性化している問題であることを意味しています。

なぜこの構造が変わらないのか——MBOとサイロの複合作用

社内業務の比率が改善されにくい背景には、MBO(目標管理制度)の構造的な課題があります。多くの大企業では、部門ごとのKPIが設計されているため、横断的な活動(グループ会社をまたいだクロスセル提案など)は「自部門の数字にならない仕事」として後回しにされやすい傾向があります。

パーソル総合研究所の調査でも、MBOの構造的課題として「部門KPIと横断活動KPIの利益相反」が指摘されています。この構造を変えずに現場の改善だけを求めても、時間配分は変わりません。


なぜ「忙しいのに成果が出ない」が起きるのか——時間配分の構造的問題

コア活動とノンコア活動の区別

時間配分の見える化を進める前に、活動の分類基準を確認しておくことが重要です。本記事では以下の3分類を使います。

分類内容典型例
コア活動顧客価値に直接つながる活動商談・提案・関係構築・初回接触
ノンコア活動社内調整・報告が中心の活動社内会議・上申書・社内報告業務
管理業務運営上必要だが価値創出に直結しない活動経費処理・スケジュール管理・データ入力

コア活動の比率を上げることが、既にある関係資産から売上機会を引き出すための基礎条件です。ノンコア活動と管理業務の削減なくして、クロスセルや新規アカウントへの時間確保は実現しません。

MBO構造が横断活動を「自分の数字にならない仕事」にする

営業インセンティブ設計とはでも解説していますが、MBOの部門別KPI設計では、グループ横断のクロスセル活動が評価されにくい構造になっています。結果として、担当者はたとえ余剰時間が生まれても、それを横断活動に使うインセンティブが働きません。

制度設計の問題であり、個人の問題ではないという認識が、時間配分改善プロジェクトを進める上での前提になります。

「bag space(鞄の空き)」——追加商材を担ぐ余裕がなければクロスセルは後回しになる

McKinseyの6C(Six Cs)フレームワークでは、Capacity(営業キャパシティ)という概念が定義されています。そのなかで使われる「bag space(鞄の空き、追加商材を担ぐ余力の比喩)」という表現は、時間配分の問題を端的に示しています。

既存商材の対応で手一杯の営業担当者は、クロスセル対象の新しい商材を「鞄に入れて(担いで)」顧客に提案する余力がない状態です。bag spaceが不足しているとき、クロスセルは構造的に後回しになります。時間配分の見える化は、このbag spaceを確保するための具体的な施策です。


時間配分を見える化する5ステップ

時間配分 見える化 5ステップ フロー図時間配分 見える化 5ステップ フロー図

ステップ1——現状の稼働分解(コア・ノンコア・管理の3分類で1週間分を記録する)

まず1週間分の業務ログを記録します。カレンダーに入力されているすべての予定と、予定外の作業時間を「コア活動」「ノンコア活動」「管理業務」の3分類に振り分けてください。ツールはExcelやGoogleスプレッドシートで十分です。

記録の粒度は30分単位が現実的です。「午前中はずっと資料作成」という形ではなく、「社内資料作成1時間(ノンコア)」「顧客向け提案書作成1.5時間(コア)」のように分けることで、実態が明確になります。初回は手入力でも構いません。記録する行為自体が、時間感覚の精度を上げる効果を持ちます。

ステップ2——ノンコア活動の削減対象を特定する(削減可能・委譲可能・自動化可能の3軸)

ステップ1で集計したノンコア活動を、次の3軸で分類します。

  • 削減可能: 参加しなくても業務が進む社内会議、提出頻度を下げられる報告書
  • 委譲可能: 担当者でなくても対応できる調整業務、情報共有の取りまとめ
  • 自動化可能: 繰り返しのデータ入力、テンプレートで処理できる定型報告

この3軸のうち、最も速く効果が出るのは「削減可能」なノンコア活動の排除です。社内会議の参加者見直しと報告書の頻度削減は、承認を必要とする場合もありますが、上位マネジャーへの提案材料として本記事のHubSpotデータを活用することが有効とされています。

ステップ3——転用先を事前に定義する(新規アカウントへの初回接触・クロスセル候補への同行訪問)

ステップ2で捻出した時間の「使い途」を事前に定義しておくことが、設計の核心です。転用先が曖昧なまま時間を確保しても、別の社内業務で埋まるケースが多くあります。

転用先の候補は「転用先の設計」セクションで詳述しますが、最低限「この時間はどのアカウントへの初回接触に使う」という具体性を持たせてください。翌週月曜日のアクションまで規定することで、余剰時間が実際の提案機会に変わります。

ステップ4——週次の時間配分目標を設定する(コア比率70%以上を短期目標とする)

HubSpot Japan 2024の現状値(コア活動54%)を出発点として、コア比率70%以上を3〜6ヶ月の短期目標に設定することが有効とされています。

週次の目標設定は「社内会議を週1回削減する」「報告書をテンプレート化して作成時間を半減する」という具体的なアクション形式で表現してください。抽象的な「コア比率を上げる」という目標では、翌週の行動が変わりません。

ステップ5——月次レビューで達成率を確認し、翌月の配分を微調整する

月次レビューでは、ステップ4で設定した目標に対する達成率を確認し、翌月の配分目標を微調整します。営業会議の議題にクロスセルを定着させる方法と連動させることで、個人の時間配分改善がチーム単位の実行に拡張されます。

月次レビューの時点でコア比率が目標未達の場合、ステップ2の削減対象の再特定が必要です。削減しきれていないノンコア活動が残っているか、転用先の定義が具体性を欠いているかのどちらかが多い原因とされています。


転用先の設計——余剰時間をどの活動に向けるか

時間を確保することと同様に重要なのが、その時間の向け先を設計することです。以下の優先度A・B・Cに従い、組織状況に応じて実行可能なものから着手してください。

転用先優先度 営業余剰時間 活動設計転用先優先度 営業余剰時間 活動設計

優先度A:既存顧客の未接触領域への提案(クロスセル候補への初回接触)

最も早期に成果が出やすい転用先です。既にある関係資産——つまり現在取引のある顧客との信頼関係——を起点として、まだ接触していない部門や事業領域へ初回接触を試みます。

この活動の優先度が高い理由は、新規顧客の獲得と比較して関係構築コストが低いためです。担当者が抱える既存顧客の中に、取りこぼされている提案機会が存在する可能性は高く、まずそこから着手することが合理的です。

優先度B:新規アカウントへの同行訪問(銀行モデルの営業体制を活用する)

銀行の対法人営業に見られる「顧客担当者が専門家を連れて行く形」は、グループ間紹介の自然な型として機能します。自社担当者がアクセスできていない新規アカウントへの訪問に、グループ内の専門人材を帯同することで、商材の幅を広げた提案が可能になります。

同行訪問のセッティングには一定の社内調整が必要ですが、捻出した余剰時間をこの準備と実施に充てる設計が有効とされています。

優先度C:紹介ルート構築のための社内連携(ダブルカウント設計が前提)

社内のグループ会社間で顧客を紹介し合う体制を整備することは、優先度Cに位置づけます。この活動は、ダブルカウントを始める前に決めておくべき5つのルールで解説しているインセンティブ制度の設計が前提になります。

紹介した担当者と販売した担当者の両方に収益を計上するダブルカウント方式がない場合、担当者が紹介活動に割く時間のインセンティブが生まれません。制度設計が整っていない組織では、優先度Cより優先度AとBを先行させることが現実的です。紹介ルートの具体的な構築手順は子会社サイロを越える紹介ルートの作り方で詳述しています。


よくある質問(FAQ)

Q1. 営業の時間配分を見える化するのに、どんなツールが必要ですか?

専用ツールは必須ではありません。まずはExcelやGoogleスプレッドシートで1週間分の業務ログを「コア活動(顧客対面・商談・提案)」「ノンコア活動(社内会議・報告業務)」「管理業務(経費処理・データ入力)」の3分類で記録するだけで十分です。初回は手入力でも構いません。記録習慣が定着した後に、カレンダー連携ツールや営業管理システムのレポート機能を活用すると、集計の自動化が可能になります。

Q2. 社内会議を削減するとき、どこから手をつければよいですか?

HubSpot Japan 2024年の調査では、無駄と感じる業務として「社内会議」が5年連続でワースト1位に挙がっています。削減の手順としては、まず直近1ヶ月の会議一覧を洗い出し、「意思決定が行われているか」「出席必須の参加者は誰か」の2軸で精査することを推奨します。報告のみで意思決定がない会議は文書共有に置き換え、全員参加が不要な会議は参加者を絞ることで、実態として20〜30%の削減が見込めるケースが多くあります。

Q3. 「bag space(鞄の空き)」とは何ですか?

McKinseyの6Cフレームワークにおける「Capacity(営業キャパシティ)」の概念を表す比喩表現です。営業担当者が1人で担当できる商材や提案先には上限があり、その余裕を「鞄の空き」と呼びます。既存商材の対応で手一杯の営業担当者は、クロスセル対象の新しい商材を「鞄に入れて(担いで)」顧客に提案する余力がない状態になります。6Cフレームワークの詳細は6C(Six Cs)フレームワークとはで解説しています。

Q4. コア活動の比率を70%にするのは現実的な目標ですか?

HubSpot Japan 2024年の調査では、現状のコア活動比率は平均54%です。70%は現状比で約16ポイントの改善を意味しますが、3〜6ヶ月かけた段階的な改善で達成できる水準とされています。いきなり70%を目指すより、まず「社内会議を週1回削減する」「報告書をテンプレート化して作成時間を半減する」といった具体的な小さな改善を積み重ね、月次レビューで進捗を確認しながら引き上げるアプローチが現実的です。

Q5. 時間配分の改善とクロスセル推進は、どのように連動させればよいですか?

時間配分の改善はクロスセル実行の「前提条件」であり、両者は直接連動します。McKinseyの6Cフレームワークでは、Capacity(営業キャパシティ)が不足するとクロスセルは後回しになると指摘しています。時間配分の見える化で捻出した余剰時間を、クロスセル候補への初回接触や新規アカウントへの同行訪問という転用先として事前に定義しておくことが重要です。転用先が曖昧なまま時間を確保しても、別の社内業務で埋まるケースが多いため、ステップ3の「転用先定義」が設計の核心になります。セールスイネーブルメントとはも併せて参照することで、ツール・研修・時間配分の統合的な設計が可能になります。


まとめ

主要ポイント

  1. 46%が社内業務に消費されている構造的問題: 営業担当者の時間の半分近くが社内会議・報告業務で使われており、個人の努力ではなく組織設計として対処すべき問題です
  2. 5ステップで実行可能な見える化の手順: 稼働分解・削減対象特定・転用先定義・週次目標設定・月次レビューという段階的な手順で、コア活動比率70%以上を3〜6ヶ月で達成できます
  3. 転用先の事前定義が成否を分ける: 余剰時間を確保するだけでは不十分です。優先度A(クロスセル候補への初回接触)から着手し、余剰時間を具体的な提案機会に転換する設計が不可欠です

転用先優先度 営業余剰時間 活動設計転用先優先度 営業余剰時間 活動設計

次のステップ

  • 今週1週間分の業務ログを3分類で記録し、現状のコア活動比率を把握する
  • 直近1ヶ月の社内会議を一覧化し、削減可能・委譲可能なものを特定する
  • 捻出した時間の転用先(最初にアプローチするアカウントと日程)を翌月のカレンダーに入れる

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参考リソース


更新日:2026-06-23著者:真鍋 駿